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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第8章 終焉

 愕いたというべきか、当然というべきか、猛威徳の妻は、良人の不審な死について役所に訴えなかった。―どころか、威徳の身体に無惨な刀傷があるのを見ても、顔色一つ変えず、家僕たちに命じて、妾腹の娘たちや妾を呼びもせずに、亡くなったその日の中にさっさと荼毘に付した。
 威徳の弔いが行われた時、何と亡骸は既にないという極めて珍しい葬儀であった。その後、威徳の夫人は悠々自適に暮らし、時折、大行首から〝お見舞い〟と称する金封が届けられることになる。
 威徳の妻が口をつぐんでいたのには、何も良人への不信や欲得づくだけではなかったろう。役所に調べられれば、威徳の悪行も明るみに出ることになる。威徳の庇護者であり協力者でもあった右議政は左議政にまで昇ったが、既に三年前に亡くなっていた。

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