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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第8章 終焉

 梨花は息を呑んだ。ジュソン、ジュソン。
 その名には憶えがあった。確か、家僕の一人だったように記憶している。姿形までは思い出せないが、庭で兄ソンジュンと遊んでいると、少し離れた場所から微笑んで幼い二人を眺めていた。
「でも、何故、ジュソンは今になって、お兄ちゃんにそのことを話しにきたのかしら」
 十一年間も心に抱えてきた重い秘密を何故、今―。
 ソルグクはかすかに眼を細めた。
「何でも本人が言うには、厄介な病に取りつかれてて、先が長くないという話だった。お前に実の兄貴が生きていることを伝えたくて、やって来たのだと言っていたよ。自分が死ねば、兄貴が無事でいることも判らずじまいになって、それじゃ、お前があまりに気の毒だと。だから、俺からお前に真相を伝えて欲しいと頼んで帰ったんだ」
「でも、お兄ちゃんは私に何も話さなかったわ」

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