テキストサイズ

遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第2章 転生

 下手人の名が巷の噂に上るようになっても、役所は右議政や猛威徳を取り調べようとはしなかった。
 政を行うのは国王ではなく、議(ウィ)政府(ジヨンプ)の三人の大臣、即ち領議政、左議(チヤイ)政(ジヨン)、右議政である。が、現在、右議政である孫愼善の権勢は議政府の長たる領議政をも圧倒している。国王さえ内心では右議政の専横と不正を不快に思いながらも、表向きは何も言えない状態であった。
 右議政が取り調べを受けず、役所が噂を聞き流したのは右議政の権力を怖れたからに相違ない。事件後の捜査も果たして、どこまで本気で行ったものかは知れず、最初から物盗りの犯行として処理するつもりだったとも考えられた。
 役所にとっては、惨劇の生き証人たる林家の子どもたちのゆく方が判らずじまいだったのは、かえって好都合とすらいえるかもしれない。今一人、ゆく方知れずとなっている家僕もついに見つけられなかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ