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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第3章 運命の邂逅

 問われ、頬をうっすらと染めて頷く。
「父が病で寝込んでしまってから、ずっと私が一人でやっています」
「それは大変だ。失礼ですが、ご家族は?」
 男は眉をわずかにひそめ、気遣わしげに訊ねてくる。
「母は一昨年、亡くなりました。兄が一人いますが、代書屋で仕事をしています」
「代書屋で? それはさぞかし、お上手な手蹟なのでしょうね」
「はい。兄は字が上手なだけではなく、学問にも造詣が深いのです。妹の私が言うのも何ですが、市井の片隅に埋もれているのは勿体ないくらい」
 その口ぶりに、男の顔が綻ぶ。
「あなたのはお兄さんは果報な方だ。こんな可愛い妹がいて、しかも、あなたはお兄さんを心から尊敬している。あなたは、お兄さんが大好きなのでしょう? 今のお話を聞いていれば、伝わってきますよ」

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