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あなたが消えない

第17章 震える心

「遠山さんが、翔さんと一緒になれないからだよ。いや、気持ちはきっと翔さんも今でも遠山さんと同じだと思う。でも、やっぱり関係っていう形が欲しいのも、本音でしょ?」

私はコーヒーをすすりながら、うなずいた。

「その辺りで、普通に生活してる主婦では体感できない事を私は書きたいの。そこにあるものだけが、幸せなんかじゃないんだって。それから、翔さんの強くて優しい思いを知ると、普通に生きてきた女性はどうなっていくのか」

どうなっていくのか。

「冷たさも、激しさも、優しさも、意地悪な所も、甘えた所も、全て持ち合わせた完璧な男に抱かれると、本気で愛されると天地がひっくり返るような気持ちに変わる…それを私は、適当に平々凡々と生きてる女たちに伝えたいの」

やだな…大げさ。

って、何だかもう自分の気持ちを、代弁してくれているみたいで涙が止まらないや。

「大きな声で言ったらダメ。若い主婦に睨まれちゃう」

私はシッ!と口元に指を立てた。

「私は批判されてもいいもの。ポリシー持って生きてるから」

さすが、趣味と仕事に生きる独身女性だ。

ちょっとうらやましい。

「趣味と仕事は最強の武器ね」

「アーザーッス☆」

誉めると照れる所が、可愛い。

「翔さん、きっと私の予想するシナリオでは、絶対に逢いに来てくれそうなんだよなぁ…」

彼女は喫茶店の窓から通りの走る車を見つめる。

「さぁ、どうかな。今頃、奥さんと赤ちゃんで、てんてこ舞いで、私の事は少しずつ忘れていってるんじゃない?」

寂しいから、自分からそう言葉に出す。

「そうかなぁ。普通の求められる在り来たりの生活をしながら、仕方ねぇとか思って父親、夫を演じているかも知れないよ?」

「もぉっ、毒舌禁止」

「ごめんちゃーい」

「でも、何だか気分はいいけどね」

「遠山さん。寂しくなったらいつでも私を、呼び出して翔さんの話を聞かせてよ。そうすれば、心はまた翔さんへの愛を思い出して、埋まるはずだからさ」

「そうだね。そうする。ありがとう」

彼女が言う通りの翔が、今そこに有って欲しいと願っている。



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