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あなたが消えない

第8章 秘密の時間

その言葉の続きは、なかった。

昨日も今日も、その次の日も。

翔の口から「翼を愛してる」という言葉は出なかった。

そして1週間が過ぎる。

焦りながらも、また翔に抱かれる。

どんな理由で、どんなキモチで、どうしたいと思いながら、翔は私に近付いて私を抱くの?

「…キモチいい…」

ただ、それしか言ってくれなくて。

不安になる。

自分が本当のところ、翔にどう映っているのか。

そして2週間が過ぎる。

玄関の電球が切れる。

理由をつけて101号室の扉をたたく。

玄関は私の特別な場所。

灯りをぼんやりともして、秘密の時間を過ごすために、今、あなたに取り換えて貰いたい。

和男には頼みたくない。

待てない、身体が…。

会いたくて、キモチが…。

開く扉の向こう側には、

「いらっしゃい、翼…」

招き入れようとするから、

「違うの、玄関の電球が切れちゃって…」

買ってきたばかりの電球を見せる。

「これで、あってるのかなぁ?」

翔は手に取り、箱の表示を確認した。

「あってるよ。で、俺に取り付けて欲しいって?」

私は照れながら、頷いた。

「じゃあ、今日は翼の玄関でしようか」

そう言われて、頭を優しく撫でるから、また赤面して頷いた。

201号室に入り込むと、

「椅子みたいな台になるもの、持ってきてよ」

「うん」

言われた通りにする。

「じゃあ、ちょっと手渡すから、そこに居て」

「うん」

両手を高く上げて、見上げる翔に胸が熱くなる。

ドキドキして、私は思わずその姿に甘えるように翔の足元に抱きついた。

「こらっ、急に」

そう言いながらも、また私の頬に触れて微笑む翔。

好き…。

でも、あなたは私のモノにはならない。

私はあなたの奥さんじゃないから。

「何、もしかして早くエッチしたいの?」

翔は以前よりも、私に親しげに話すから、

「したいのは、翔のくせに聞く?」

私と翔は、また見つめ合う。

取り付けて台から降りて、玄関の電気を付けた。

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