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紅蓮の月~ゆめや~

第7章 第二話 【紅蓮の花】 エピローグ

 次にあの打ち掛けを着る客が現れるまで、打ち掛けはずっとあの場所で長い眠りにつくのか。そして、新たなる客に儚くも美しい夢を見せるのだろうか。短い生涯をただ一人の男と過ごす一刹那のためにだけ生きた少女の見た夢を。
 突如として大きな音が静寂を破り、花凛は愕きにビクリと身を震わせた。柱時計が時を告げる音色を響かせ始めたのだ。
 ボーン、ボーン。いかにも年代物らしい古びた時計はセピア色に沈んだ店の風景の中にしっくりと馴染み溶け込んでいた。衣桁に無造作に掛けられている着物の色鮮やかさがくすんだ色の中でそこだけ際立っている。
 柱時計は折しも丁度、四時を打っている。その音がすべての物音が雨に吸い込まれた静寂の中、やけに大きく響いた。愕いたことに、花凛がこの店に入ってから、まだ十五分ほどしか経っていなかった

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