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紅蓮の月~ゆめや~

第8章 第三話 【流星】 プロローグ

 初夏の陽も傾き、オレンジ色の夕陽が狭い道を照らしていた。美都はまるで迷子になった子どものように周囲を物珍しげに眺め回す。本当に何もかもが昔と同じだった。
 バス停から真っすぐ伸びた道の両側に立ち並ぶ店は申し合わせたように皆戸を固く閉ざしている。店を閉めてからもう随分と月日を重ねていることを物語るように、どの店も荒れが目立ち埃(ほこり)が積もってた。否、人影どころか犬の子一匹さえ見当たらぬ光景は、死せる町そのものであった。
 美都がここに住んでいた頃はあれほど賑やかで活気溢れる町だったのに―。町並そのものは変わってはいなくても、よくよく見れば、町はかなり衰微しているようだった。そのことは美都を落胆させるというよりは、やるせない哀しみの淵に追い込んだ。

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