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紅蓮の月~ゆめや~

第8章 第三話 【流星】 プロローグ

 聞き慣れない言葉が次々と出てきて、美都は眼を瞠る。
 美貌の女主人は淡く微笑(わら)った。
「袿の表地と裏地の色の配合、つまり色づかいのことですよ。季節によって着用する色が決まっておりました。紅梅襲というのは表は白、裏は蘇芳(すおう)。とてもやわらかな春らしい装いです。平安時代の有名な方がお召しになったものですわ」
「平安時代―」
 美都は絶句した。美都が生きている現代から言えば、まさに千年以上も昔だ。果たして、そんな大昔の着物が本当にここに実在するのだろうかと疑いさえ抱いてしまう。
「嘆きつつひとりぬる夜のあくるまはいかに久しきものとかは知る」
 ふいに美都の口から言葉が紡ぎ出された。自分でも何故、そんなことを口走ったのか判らず、美都は茫然とした。本当にまるで自分ではない誰かが自分の口を借りて喋っているような感覚だった。

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