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紅蓮の月~ゆめや~

第2章 紅蓮の月

―紅蓮の月―
     一
 帰蝶はもうかれこれ一刻(いっとき)余りにわたって、ずっと庭を眺めていた。
―ああ、退屈だこと。
 気だるげに脇息に寄りかかって時折小さな吐息を洩らすその様は、以前の帰蝶なら想像もできない。嫁いでくる前の彼女は「お転婆姫」と家臣たちからまで揶揄されるほど活発な―木登りが得意という、いささか羽目をはずしすぎるほどの少女だったのだ。
 それなのに、この織田家に輿入れしてきてからというもの、きらびやかな小袖を着て澄まして城の奥深くに籠もってじっとしていなければならない。大勢の侍女にかしずかれ、日がな貝合わせやら双六やらをして遊ぶ。どうも、帰蝶の性には合わない暮らしぶりだ。
 確かに入輿する前、父斉藤道三に約束はしたけれど、これでは息が詰まってしまう。

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