紅蓮の月~ゆめや~
第9章 第三話 【流星】 一
兼家がつつっと近寄ってくる。
「逢いたかったぞ」
と、手さえ握って引き寄せようとするのに、美耶子は両手で力一杯良人の身体を向こうへ押しやった。
兼家は刹那興ざめた顔になったが、すぐに何事もなかったかのように愛想笑いを浮かべた。
「主上の御気色も芳しからず、陰陽寮に手配して陰陽師に祈祷させたりと雑用ばかりが次々に入ってきたのだ。身体は内裏にあっても、心では美耶子を想ってばかりいたゆえ、迂闊にも仕事で手抜かりが多くて困ったよ。とにかく忙しくて、眼が回るようだった」
―何と白々しい。
美耶子は際限なく続きそうな兼家のお喋りを止めるために、その口を手で塞いでやりたいとさえ思った。聞き苦しい言い訳はもうたくさんだ。
「逢いたかったぞ」
と、手さえ握って引き寄せようとするのに、美耶子は両手で力一杯良人の身体を向こうへ押しやった。
兼家は刹那興ざめた顔になったが、すぐに何事もなかったかのように愛想笑いを浮かべた。
「主上の御気色も芳しからず、陰陽寮に手配して陰陽師に祈祷させたりと雑用ばかりが次々に入ってきたのだ。身体は内裏にあっても、心では美耶子を想ってばかりいたゆえ、迂闊にも仕事で手抜かりが多くて困ったよ。とにかく忙しくて、眼が回るようだった」
―何と白々しい。
美耶子は際限なく続きそうな兼家のお喋りを止めるために、その口を手で塞いでやりたいとさえ思った。聞き苦しい言い訳はもうたくさんだ。