テキストサイズ

紅蓮の月~ゆめや~

第9章 第三話 【流星】 一

 美耶子は両手で顔を覆った。良人が二十日ぶりに来たことが嬉しくて、やっと逢えると思って、嬉しさを隠しきれないほど歓びに震えたのに。
 心ない言葉のつぶてを投げて傷つけてしまった。美耶子の眼から大粒の涙が溢れた。
 恐らく、兼家の前でこんな風に泣いて見せれば良いのだろう。美耶子が素直に兼家の胸に縋り泣けば、可愛げのある女だと良人は思うに違いない。
 でも、―できないのだ。性格が災いするのか、どうしてなのか、兼家の顔を見ると、つい言いたくないことまで言ってしまう。否、兼家の前だけではない。物心ついた頃以来、美耶子は実の親にさえ可愛げのない子どもだと言われてきた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ