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紅蓮の月~ゆめや~

第14章 最終話 【薄花桜】 二

     二

 小文は買ったばかりの産み立てだという卵を入れた雑炊を作ると、奥の部屋で寝ている治助の枕辺に運んだ。
 治助はこうして一日の大部分を布団の中で過ごす。気分の良いときには床の上に身を起こすが、最近は滅多とそんな姿も見かけなく
なった。
 治助の枕許には小文が近隣の寺から分けて貰った桜のひと枝が花器に活けて置いてある。小文が外に出られない治助のために、花見の気分をせめて少しでも味わうことができたならと思ったのだ。
 寺の庭の桜の花は限りなく白に近く、ほんのりと色づいている程度である。小文はその白い花を切なく見つめた。

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