紅蓮の月~ゆめや~
第14章 最終話 【薄花桜】 二
四月の空は深い湖を思わせるほど蒼い。
この小さな町も桜が盛りの季節を迎えている。
最愛の良人が亡くなって、はや二十年の年月を数えた。十八だった小文も三十八になった。良人治助が亡くなったのは、暑い夏の最中のことだった。あの年の春、小文は思いもかけず、上洛中の関白秀吉に馬上から声をかけられた。あの折、小文はなにゆえ秀吉が自分に名前なぞ訊ねたのか判らなかったけれど、後になって漸くその意味を知った。
秀吉は沿道にいた小文を見初めたのだ。恐らくは側妾の一人にでも加えようというつもりだったのだろう。
この小さな町も桜が盛りの季節を迎えている。
最愛の良人が亡くなって、はや二十年の年月を数えた。十八だった小文も三十八になった。良人治助が亡くなったのは、暑い夏の最中のことだった。あの年の春、小文は思いもかけず、上洛中の関白秀吉に馬上から声をかけられた。あの折、小文はなにゆえ秀吉が自分に名前なぞ訊ねたのか判らなかったけれど、後になって漸くその意味を知った。
秀吉は沿道にいた小文を見初めたのだ。恐らくは側妾の一人にでも加えようというつもりだったのだろう。