紅蓮の月~ゆめや~
第2章 紅蓮の月
もっともっと、この男のすべてを知りたいとこの時思ったのだ。
「儂がいつ死ぬ運命(さだめ)にあるかは誰にも判らぬ。たいがいの者は神仏のみぞ知ると申すころであろうが、儂は神や仏なぞといった実体のないものは端から信じてはおらぬからな。この儂だとて、そちがいつ死ぬるかも誰も知らぬ。人はただ運命(さだめ)のままに生き死ぬるだけじゃ」
信長はもっともらしいことを大真面目な顔で言うと、ニヤリと口の端を引き上げた。
「帰蝶、そなたは運命(さだめ)という武器しか持たぬ暗殺者だ」
信長は皮肉げな口振りで言い、ふと真顔になった。その手がスと差し出された。
「―美しい刺客」
信長の手が帰蝶の頬に一瞬触れ、離れた。ひやりとした感触を頬に感じ、帰蝶は身体中が粟立つのを憶えた。信長の手は冷たかった。まるで蛇(くちなわ)のように温もりのない手であった。
「儂がいつ死ぬ運命(さだめ)にあるかは誰にも判らぬ。たいがいの者は神仏のみぞ知ると申すころであろうが、儂は神や仏なぞといった実体のないものは端から信じてはおらぬからな。この儂だとて、そちがいつ死ぬるかも誰も知らぬ。人はただ運命(さだめ)のままに生き死ぬるだけじゃ」
信長はもっともらしいことを大真面目な顔で言うと、ニヤリと口の端を引き上げた。
「帰蝶、そなたは運命(さだめ)という武器しか持たぬ暗殺者だ」
信長は皮肉げな口振りで言い、ふと真顔になった。その手がスと差し出された。
「―美しい刺客」
信長の手が帰蝶の頬に一瞬触れ、離れた。ひやりとした感触を頬に感じ、帰蝶は身体中が粟立つのを憶えた。信長の手は冷たかった。まるで蛇(くちなわ)のように温もりのない手であった。