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紅蓮の月~ゆめや~

第3章 紅蓮の月 二

 やはり、皆が言うように本当のうつけ者なのだろうか。それとも、帰蝶を所詮は女だと端から侮っているのだろうか。女が非力ゆえと思っているのか、一度自分のものにしてしまった女ならば、けして手出しはせぬと思っているのか―。しかし、夫婦(めおと)として長の年月を連れ添い、幾人も子をなした間柄でさえ、時には良人の生命を奪わねばならぬさだめにあるのが戦国に生きる女の哀しさであった。信長ほどの男がただの一度その身体を欲しいままにしたからとて、女を心から服従させ得るなどと考えているとは思えない。
 帰蝶は信長の心をはかりかね、悶々とした。
 身繕いを済ませ枕許に座り、その安らいだ寝顔を眺めながら思い悩んだ。枕辺の燭台の灯りが信長の秀麗ともいえる顔を照らしている。全く邪気のない、幼児のようなあどけなさだ。その顔に警戒の色は微塵もない。

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