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紅蓮の月~ゆめや~

第3章 紅蓮の月 二

 信長は信じられない素早さで帰蝶の手を掴み、逆にそのか細く白い手を捻じ上げた。物凄い力だった、このままではすぐに骨まで砕かれてしまうのではないかと思うほどの力で捻じ上げられ、帰蝶の手から呆気なく懐剣が落ちた。
 信長は最初から眠ってはいなかったのだ。あるいは、眠っていたとしても、その眠りは浅く、帰蝶の動向を逐一察知できるほどの意識を保っていたのだろう。
 そんなことはどちらでも良い。いずれにしろ、帰蝶は失敗したに変わりはない。
 信長が帰蝶を見下ろしていた。その眼は怖いほどに冷めていた。帰蝶もその視線を逸らすことなく受け止め、信長を見つめ返す。
 せめて最期くらいは堂々としていたかった。信長は己れの生命を奪おうとした帰蝶をけして許しはしないだろう。殺されるなら、見苦しく騒ぎ立てたりせず潔く死にたいと帰蝶は思った。

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