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紅蓮の月~ゆめや~

第5章 第二話【紅蓮の花】 プロローグ

 玄関にはガラス戸がはめ込まれており、昔の駄菓子屋のような印象を与える。表の看板は殆ど消えかかっていたが、辛うじて「ゆめや」と読めた。
 「ゆめや」とは不思議な名前だった。
―一体、何の店だろう。
 花凛の中で好奇心が湧き上がった。
 最初は閉まっているのかと思ったけれど、力を入れなくても表のガラス戸はすんなりと開いた。
 一歩中に入って、花凛は眼を見開いた。さして広くはない店中に所狭しと着物が置いてある。衣桁に掛けられたもの、壁に作りつけになった棚にきちんと畳んで置かれてあるもの、実に様々であった。その風景はきちんと
片付けられているにも拘わらず、かなり雑然とした印象を受けたが、一見、何ということはない小さな古着屋のように見えた。

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