紅蓮の月~ゆめや~
第5章 第二話【紅蓮の花】 プロローグ
「忠衡様、このように濡れてしまわれて。どうか中にお入りになって下さいませ」
凛子が言うと、忠衡は首を振った。
「俺のことは良い。凛子、気をつけろ。泰衡の兄上の周辺が今朝方からかなり騒がしい。伽羅御所(きゃらのごしょ)(藤原氏当主の館)を武装した家臣どもが大勢出たり入ったりしている」
いつもは屈託ない笑顔を見せる忠衡の面に笑みはなかった。
「このことを九郎殿にも伝えてくれ。最早一刻の猶予もならぬ。早々にこの館を立ち退かれるが良いとな」
ついに来るべきときが来たのだ。凛子はまるで背筋に氷塊を入れられたように、身体がスウと冷えてゆくのを感じた。
「忠衡様」
物心ついたときから、実の兄妹のようにして育ってきた忠衡だった。
見上げる凛子を一瞬眩しげに見つめ、忠衡は頷いた。
凛子が言うと、忠衡は首を振った。
「俺のことは良い。凛子、気をつけろ。泰衡の兄上の周辺が今朝方からかなり騒がしい。伽羅御所(きゃらのごしょ)(藤原氏当主の館)を武装した家臣どもが大勢出たり入ったりしている」
いつもは屈託ない笑顔を見せる忠衡の面に笑みはなかった。
「このことを九郎殿にも伝えてくれ。最早一刻の猶予もならぬ。早々にこの館を立ち退かれるが良いとな」
ついに来るべきときが来たのだ。凛子はまるで背筋に氷塊を入れられたように、身体がスウと冷えてゆくのを感じた。
「忠衡様」
物心ついたときから、実の兄妹のようにして育ってきた忠衡だった。
見上げる凛子を一瞬眩しげに見つめ、忠衡は頷いた。