あたしは被害者
第9章 どっちもぶっ壊す
「笑みちゃーん、
バスタオルがないのー。
取っていてくれるー?」
一階のお風呂場から
ママの声。
はぁ……。
小さな声で
大きなため息をついてから
「はーい」
ケータイをベッドに置いて
タオルが干してある洗濯物置き場へ。
タオルを取って
階段に一歩踏み出した時、
『ヴー…ヴー……』
ベッドの上から
今度は電話のバイブ音。
部屋のドアの隙間から
画面を見ようにも
電気が反射して見えない。
まぁ、いっか……。
ママの所へタオルを届け
部屋に戻って確認する。
『桶川さん』
……やらかした~。
すぐにかけ直す。
『プルル…プルル……プ』
「あ、桶川さん……?」
「あー、笑みちゃん?
今、大丈夫?」
「うん!大丈夫だよ〜
どうしたの?」
自然と表情を作る。
「急だけど明日さ、
一緒にプレゼントを選びに行かない?
本当に急なんだけど……」
ガタンガタンと電車の音と
風の音が混じって耳が痛いくらいの
音がする。
でも、それでも聞こえた
桶川の声。
明日……?
……正也と出かけるのに…。
「ご、ごめんなさい
なんかちゃんと聞こえなくて…
メールでいいですか?」
「あぁ、そうだよね、
ごめんね」
『ツーツー……』
電話が切れて
一気にしんと静かになった気分。