それで、また会ってる。
第1章 冷たい手
『お前、男が好きなんだろ?』
そう言われたのはいつだっただろう。
言ってきた奴は当時の親友で、高校のときだ。俺は確か……そうだ、大学受験を間近にした三年生だった。
長い間隠してきた秘密がバレてショックだったことを覚えてる。だけどそれ以上に、親友に浴びせられた言葉にショックを受けた。
それなのに何を言われたのか肝心な内容は思い出せない……。面白いな。でも多分、意識的に記憶から消したんだ。
重く暗い出来事。一番仲が良かったから油断したんだ。話せば分かってくれる、なんて淡い期待を抱いたのがそもそもの間違いだった。崩れ落ちた友情から学んだことは、良くも悪くもその後の自分を守る術となった。
あの日から、絶対に男を好きにならないと決めた。
永遠に独りでもいい。自分の力で生きていくんだと。
「清水さん、お疲れさまでした!」
「おぅ、おつかれ。また明日」
……もう二十二時時か。
勤め先のスポーツジムから外に出てスマホを一瞥する。彼は堤俊紀、二十五歳。
大学を卒業し、インストラクターとして今の職場に就職した。仕事の内容には満足しているし、多少収入が少なくても何とかなっている。
それに意外と出会いもあるから楽しかった。スポーツをやってる爽やかな好青年。多分それが人から見た自身の印象。
でも実際はそんなことない。爽やかよりは、いくらか過去を引きずるタイプだ。
元々は恵まれてる方だと思う。スポーツが好きだから頑張って体育大学に行ったけど、勉強が苦手なわけではなくむしろ得意な方だ。
高スペックかは分からないけどイケメンは辛い。って事をこの前友人に冗談で話したらどつかれたな。
……今日は別の道から帰るか。
普段の帰り道である大通りからそれて、人気の少ない森沿いの道に入った。
何でこの日に限ってこの道を選んでしまったのか。これは後になって、彼の一生の疑問点となる。
違う道を行っていれば、また別の人生を歩んでいたんじゃないか。今は、そう思えてならない。