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それで、また会ってる。

第1章 冷たい手



「ねぇ俊紀さん」
「ん?」
情事を終え、後始末も済んだ。にも関わらず、俊紀と夕都はまだ駐車場の角で座り込んでいた。
「俺は、男を好きになった事なんて今までなかったんだよ。女しか好きにならなかった。……でも」
夕都は俺の膝の上に跨って、優しく頬にキスをした。

「男の人も好きになれるなんて、俊紀さんと会わなかったら一生気付かないまんまだったよ。……なんて言っても、今はもう俊紀さん以外は男でも女でも好きにはならないけどさ」

嬉しそうに笑う夕都は素直に可愛くて、抱き締めてしまった。
「あぁ。どうしよう、また歯止めきかなくなりそう……」
「いやいや、もう身体ダルいから帰ろうぜ」
夕都は乱れた制服を直して立ち上がった。
「……そうだな。行こうか」



また街中に戻り、二人は雑踏を掻き分けて家の方角へ向かった。
「よーし! 俊紀さん、今度俺の家に来てよ」
「お前の家? でも確か、前は行ったらまずいみたいなこと言ってなかったか?」
「うん。でも、そろそろ平気かなって思って……」
夕都は少しうつむきながも、明るい声音で話した。それには少し安心したけど、誰かの視線と声が聞こえて立ち止まる。

「先輩?」

こんな人混みの中でも、自分たちに話しかけた事が分かる位、透き通った声が聞こえた。振り向くと、そこには夕都と同じぐらいの年頃の少年が立っていた。

「赤沼……!」

どうやら知り合いだった様で、夕都は少年の方へ駆け寄る。
「やっぱり、夕都先輩! 何で今まで連絡くれなかったんですか? あの後どうなったのか、俺すごい不安で……身体は? 大丈夫なんですか!?」
「落ち着け、大丈夫だから。俺と一緒にいたら、お前にも何があるか分かんないだろ? 一旦、距離を置いた方が良いと思ってさ」
「何で先輩がそんな心配するんですか! 本当なら……あのとき、俺が……っ」
少年は辛そうに言葉を振り絞る。
俊紀はというと、全くと言っていいほど状況が分からない。だから傍らでその様子を見守るしかなかった。





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