それで、また会ってる。
第1章 冷たい手
「えーと、水を差すようで悪いけど……夕都、この子は?」
悪いとは思いつつも、この重苦しい空気を何とかしようと夕都に彼の紹介を促した。
「あ、俺の一こ下の後輩です。……赤沼、この話はまた今度しよう。俺から連絡するから」
夕都は彼を置いてこの場を去ろうとしたけど、慌ててその腕を掴んだ。
「待てよ、久しぶりに会ったんだろ。せっかくなんだし、二人でゆっくり話したら? 俺は先帰るからさ」
「いいから! 行こうって」
夕都はその腕を振り払った。
彼……赤沼から離れたい一心で、人波にのまれながらも足早に歩く。
……はぁ。
沈みそうな気持ちを強引に切り替えて、後ろを振り返った。
「俊紀さん、さっきの事だけど、別に何でもないからから忘れて……」
しかし言い終わるより先に、いる筈の人物がいない事に気付いて呆然とする。
「あれっ? ……俊紀さん?」
□
同じ時間に、俊紀も呆然としていた。
あいつ、ひとりで行っちまった……。
夕都は足早に行ってしまった為、姿を見失ってしまった。追おうにも、あまりの人混みで先が見えない。下手に動いたらもっと離れてしまいそうだ。
「あのぉ……もしかして、先輩のお兄さんですか?」
同じく隣にいる彼が、恐る恐る尋ねてきた。
「いや、違うよ。えーと……知り合い、かな」
「そうなんですか。てっきりお兄さんかと思いました。ちょっと歳離れたお兄さんがいるって、聴いたことあったんで」
彼は申し訳なさそうに頭を下げたから、気にしないよう伝えた。
「それより君、大丈夫?」
「はい。俺は大丈夫なんですけど、先輩が……」
赤沼君は暗い面持ちで呟いた。
「先輩、俺のことなにか言ってませんでした?」
「いや、悪いけど何にも……」
ふう。どうすっかな。
「こんな所で突っ立ったまま話すのもアレだし、ちょっと移動しようか」
場所を変えて、二人は広い敷地のベンチに腰かけた。
「ごめんな、紹介遅れて。俺は堤俊紀っていうんだ」
自販機で買ってきたジュースを彼に手渡す。
「ありがとうございます。俺は赤沼 尚太っていいます。さっきはいきなり割り込んですいません。先輩とはずっと連絡が取れなかったので……」
「そっ、か」
「俊紀さん、先輩から何か聞いてませんか? 今何してるのか……あの後、どうしたのか」
「あの後?」