それで、また会ってる。
第1章 冷たい手
さっきからそうなんだけど、彼らの話はよく分からない。反応に困ってると彼は続けた。
「多分、怪我も酷かったはずなんです。俺のせいで……」
「怪我……って、もしかして腹のところ出血してたやつかな?」
尋ねると一瞬の間を空けたのち、彼は頷く。
「君のせいで、っていうのは……どうして?」
「俺があいつらに反発するような事をしたから。本当は俺がやられる所だったのを、先輩が身代わりになってくれたんです」
や……殺られる?
物騒な話になってきたと思ってると、彼はスマホを取り出した。
「俊紀さんは先輩と知り合って長いんですか?」
「ううん。君よりずっと短いと思うよ」
嘘じゃないから、真っ直ぐに見つめてくる彼の瞳を見返した。
「でも今は、一番一緒にいると思う」
もちろん、これも。
「……そうですか。俊紀さん、これ俺の番号です。また話したいのでどうぞ」
「あ、あぁ」
一方的な形で、彼から電話番号をもらった。
「じゃ、俺はもう行きます。後……」
彼はなにか悩んでいる様だったけど、やがて恥ずかしそうに話し出した。
「先輩って相当変わってるし、頑固な所あるんですけど、ホントはすごい優しいんです。だから、その……できれば、誤解しないであげてください」
笑ってそう言うと、今度こそ行ってしまった。
もっと訊きたい事や話したいことがあったものの、今は仕方ない。
改めて深く息をつく。彼の言う通り、夕都は多分、そこまで悪い奴じゃない。悪い奴だったら同居も恋人も無理過ぎる。
丁度そのときスマホの着信音が鳴って、何も考えないまま電話に出た。
「もしもし?」
「俊紀さん!? もう、今どこにいんだよっ」
「夕都。あー……どこだろ。広いとこにいんだけど」
「そんだけで分かるか! もう知らない!」
赤沼君じゃないけど、一方的に言われて、一方的に切られた。
悪い奴じゃないのは確かだけど……ムカつく事は多々ある。
嘘じゃなくて、この駅あんまり降りたことないから分からないし。
ため息をついて現在地を調べ始めた。
ようやく位置が分かってから、早足で家へと向かう。
あんまり長い間、あいつを独りにさせないために。