それで、また会ってる。
第1章 冷たい手
時々使うこの道は真隣が暗く、生い茂った森に面しているため、女性が夜歩くのは危険かもしれない。
でも男の俺が歩くぶんは大した問題じゃない。ゆったりしたペースで進んでいると、森の奥から何かが近付いてくる音が聞こえた。
ガサガサと草木を掻き分けているようだ。
鳥? 猫……にしては音が大きすぎる。
少し不安になって、横にずれた。
「わっ!?」
それと同時に、真正面から何かとぶつかる。
やはり猫なわけがなく、人だった。
「痛……っ」
辺りは相変わらず暗くてよく見えないが、声から相手が男だとわかった。それも、恐らくまだ子ども。
彼は息を切らしており、腹を押さえている。しかしそれは走り疲れによるものではないと気づいた。
彼とぶつかった際に互いの手が触れた。
今俊紀の指にある感触は、さらりとした液体。暗がりでも赤く光るそれは、多分……血だった。
「お、おい。怪我してるのか?」
相手は距離をとっていたが、俊紀は構わず彼に近付いた。
よく眼を凝らすと、やはりまだ若い。制服を着た金髪の少年が、鋭い眼つきで睨んでいる。しかし疲弊しているからか逆に弱々しく感じた。
俊紀は傷の具合を見ようとしたが、突然森の中から聞こえた声にたじろいた。
「おい、そっちも探してみろ! 近くに隠れてるはずだ!」
……っ?
一体何事かと少年から眼を外した瞬間、強く腕を掴まれ、近くの大木の影に引き込まれてしまった。
「わっ! ちょっ……何すんだよ!?」
少年の行動に驚き、俊紀は大声で叫んだ。
「おい、今声したよな!?」
「あぁ……でもあいつの声だったか?」
そのせいで、声の主はこっちに気付いたようだ。
よく分からないが、多分この少年は彼らに見つかったらまずい状況にいるのだ。なら今自分が大声を出したことを怒ってるかもしれない。恐る恐る彼の顔を見た。
しかし彼は怒るどころか優しい顔で、唇に人差し指を当てていた。
あれ、怒ってない?
優しいと思った。ちょっと静かにして、みたいなノリなんだと。
でも違った。
首筋に当たる冷たい感触は、なにがなんでも口を開くことを禁じようとしている。
彼は俊紀の耳元に顔を近付けると、諭すように囁いた。
「大丈夫、何もしないから。……その代わり変な気起こすなよ」
彼の手元で銀色に光ったそれは、一本のナイフだった。