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それで、また会ってる。

第1章 冷たい手



夜の森で、知らない少年と息が当たりそうなほど密着してる。
いやいや、何だこれ……!
パニックになるぐらい意味不明な状況。しかし首元で光る鋭利なものがチラついて、他は何も考えられない。
ひとまず息を殺し、大人しくすることにした。少年は額に汗を浮かべ、今も苦しそうにしている。それもやはり気になるが……。

「……、……!」

声は次第に遠ざかっていった。二人組だったのか三人組だったのか、今いち分からないまま。
いなくなった……のか。
やっと深呼吸ができる。そう思った瞬間、少年は地面に崩れるようにその場に倒れた。
「ちょっ……大丈夫か?」
何とか抱き起こし、少年の顔を窺う。しかし彼は俊紀の予想に反する質問を投げかけてきた。
「ねぇ、……この近くで一番近い駅ってどこかな」
少年は血色の悪いまま、俊紀に訊ねた。
「駅って……それより病院が先だろ? 救急車呼ぶからちょっと待」
「待って、救急車は無理」
俊紀が言い終わるより前に、少年は強く却下した。
「病院も駄目だ。今行ったらあいつらにつかまっちまう」
「何かややこしい事情があるみたいだけど……傷、そのままはまずいだろ。せめて手当てしないと」
「……」
息も絶え絶えに、彼は何も言わずに俯いた。
「おい、しっかり……」
俊紀は焦って大声を出しかけた。しかし、今度は言葉を失う。
わずかに聞き取れる程度の声を出して、彼は泣いていた。
初めて会ったというのに、その泣き顔は彼の弱さを指し示しているようで、見てていいのか分からなかった。

だけど、今はそばにいてやった方がいい。
この時は何故か、そう思った。




「……うん。傷は浅かったから大丈夫だと思うけど、しばらくは安静にするように言っておいてね」
「サンキュー。夜中に呼んで悪かったな」
「いいよ、今度奢ってくれれば」

あれから一時間が経とうとしている。俊紀は何とか自宅のマンションに帰ってこれた。部屋に戻り、ベッドで眠っている少年の隣に腰を下ろす。
自分一人ではどうしようもなくて、高校時代から付き合いのある研修医の友人を呼んだ。応急処置をしてもらうだけでも助かった。

森の中で、少年は意識も曖昧な状態。それでも病院は行きたくないの一点張りだったため、仕方なく家に連れ帰って手当てをすることにしたのだ。






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