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それで、また会ってる。

第1章 冷たい手



「ふぅ……」

俊紀はテーブルの上の時計を見て溜め息をもらした。時刻はもう零時を回っている。
この子の家族は心配してるかもしれない。そう思ったら頭より先に体が動いて、彼の携帯を上着から探していた。
────ところが。

「あのー」
「うわっ!」

背後から突然かかった声に、心臓が跳ね上がった。振り返ると、寝ていたはずの彼がドアの前に立ち、こちらを見ている。
「も、もう起きれたんだ……。大丈夫?」
「はい。おかげさまで」
少年の淡白な返答に素直な安心していいのか、微妙な気持ちになった。

「あのー、それですいません、実はお願いがあるんです。今日泊まらせてもらっても……いいですか?」

やや違和感のある言い方で、彼は俊紀に頭を下げた。
「それは構わないよ。ちょうど今、……勝手に悪いけど、スマホを借りて君の家族に連絡しようと思ってたんだ。でも起きれたみたいだから、とりあえず君はご両親に連絡を」
「大丈夫です。俺一人暮らしなんで」
「え。珍しいね。君高校生だろ? 寮とか?」
そう言うと、彼は近くの椅子にもたれて、無邪気な笑顔を見せた。

「いえ、実家ですけど家族が帰ってこないんで、ほとんど一人暮らしみたいな感じなんです。俺今高一で、柳瀬夕都っていいます。助けてくれて本当にありがとうございました!」

無邪気な笑顔と、明るく元気な声。そこには、初めて会った時の様な重い空気は存在しなかった。
どこにでもいそうな高校生。……よりは、いくらか荒んでる気がするけど。

「あぁ。俺は堤俊紀。よろしくね」
「俊紀さんかぁ。すごい優しいんですね」
「ん? 何が?」

夕都の言葉の意味が分からなくて、俊紀は純粋に聞き返した。

「何があったか聞かないのは、単純に面倒事に巻き込まれたくないからかもしれないけど……何も俺の要望通りに助ける筋合いはなかったでしょ。助けてもらった身でこんなこと言うの、限りなく失礼だけど。よく知らない俺なんかの為に、何でここまで気を遣ってくれたんですか?」




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