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君のため。

第48章 1本の電話。

たった1本の電話から全ては始まり、
全てが終わることとなる。

1本の電話。

彼は最後まで認めることはなかったけど。
私の滞りない生活に火種をともそうと、
彼自身が仕掛けた罠だったんだと思う。


ある日携帯に非通知の着信が続く。
あまりにしつこいので電話に出る。
女の人の声。

「~さんですよねー?お宅の『~』さんとの間に子供ができちゃったのに認めてくれないの。
…別れて。」

…なんなの?
私は混乱しながらも答える。

「うちの人『~』って名前じゃないですよ。お間違えでは?」


切ってすぐに彼に電話してしまう。


…変な電話がかかってきたんだけど。

「どうしたの?変な電話って?」

わざとらしく感じる。
嘘つけない人だな。確信。


よく考えると
この時にすぐ彼のことを疑った私は
酷い奴だと思われるかもしれない。
でもそんなことを仕掛けてきてもおかしくないぐらい
彼は追い詰められているように見えた。

そして私も、怯えていた。


電話の内容を告げる。


…あなたでしょう?
あなたにしか出来ないことなの。

「なに言ってるの?」

…もしあなたがあの電話に関わっていたんなら、
逆転満塁ホームランであなたのこと嫌いになるから。

「だから何を言ってるの?わけが分からない。」

…私、自分でも知らず知らずに『彼』のことをフォローしてしまったの。
『彼』のことではないですって。
まだ私は『彼』に気持ちが残っているのかもしれない。

「何なの?なんでそんな酷いこと言われなくちゃならないの?」


私は感情的になりすぎていた。
本当はもう少し落ち着いてから電話すれば良かったのかもしれないけど、どうしようもなかった。

私はこの罠を仕掛けてきたことに怒っていたわけではない。

電話をかけてきた女の人、知らない第三者が私を、私達のことを知っているかも、ということであり。

二人だけの秘密を軽々しく人に話した、ということに腹が立ったのだ。


ただこの事で別れようなんて一切、
私は思ってはいなかったんだけど。

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