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それでも、私は生きてきた

第58章 小さなしあわせ

気が付くと祖母が何かを取り出し、
眺めていた。

それ、なぁに?


ここさ針刺して、ここさ糸入れて、がっちゃんこってすっとなぁ……ほれ!はいったぁ。


何やら嬉しそうに針を取り出す祖母の手先を見ると、
針に糸が通っている。

糸通しの道具だった。


ばぁちゃん目、見えねくてなぁ。ユリにいつも針に通してもらったべぇ?ユリ居なくて、ばぁちゃん裁縫出来ねぇ言ったら、お母さん買ってよこしてくれたんだぁ。



小さな手のひらサイズの物体。

叔父が子供のように、

貸してけろ、貸してけろ


と、糸通しの仕組みを探り始めた。

叔父も、車の整備がやりたかった。と、昔話を聞いた事がある。叔父の就職時代は、選ぶ余裕は無かった。せめて車に関わろうと、食品配達の運転手を選んだと。


まだ私が幼かった頃、
母が車の不調の時はいつも叔父を呼んでいたことを覚えている。

車に不慣れで小さな子供を乗せた母にとっては、
バッテリーが上がってしまうことも大きな不安。

いつも叔父が駆けつけて、
車屋さんの叔父。と、子供の頃はイメージしていた。



叔父も手先が器用で、
細かい仕組みに興味を抱いたようだった。



何度も何度も
ガシャンガシャン

入った!入ってない!

針穴の向きによっては、
糸が通らない。


ただの糸通し。

それを、
3人で笑いあって夢中になっている。


こんな幸せな瞬間を
一瞬でも見逃さないように…
瞬き一つするのも惜しく思えた。

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