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理想と偽装の向こう側

第10章 信頼と疑惑

嘉之は唇を離し、顔を私の耳元に埋めて囁いた。



「俺…死ぬ気で頑張るからさ…。」
「うん…。」



私は、重なる手を更に強く握った。


◎ ◎ ◎ ◎

「パタン…。」



部屋のドアが閉まり、微かに冷蔵庫を開ける音が響く。



私は、虚ろな意識で今日の出来事を振り返り始め、さっき握り合った掌を見詰めた。



おもむろに元木さんの言葉が、浮かぶ



『握手しちゃいました~!』



そい言えば…私、握手したことないかも。



急に目が冴えて、上半身を起こす。



片想いが長すぎて、色んな事が一足飛びだったから、そんな素朴なこと思いもしなかった!



さっきまで、嘉之の腕の中にいながら、そんな事を考えてしまう。



だって、『好き』って言葉は貰えてない。



正直、諦めに近いが、やはり心の何処かで望んでしまうのは、贅沢だろうか。



だからって、握手は今更だよね…。



「握手っ!」



空に向かって手を伸ばしてみた。



「………。」



何やってるんだろうか…。



手を伸ばしたまま、項垂れた。



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