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理想と偽装の向こう側

第11章 亀裂

嘉之が帰って来た。



「はぁ~疲れた…。香織いる~?」



顔を見られたくなくて、俯いていた私の横を通り過ぎながら話している。



「思いの外、時間かかったな。あれ、どうしたの荷物持って?」



「…える。」



「あっ!シチューじゃん!やったね!食おう~。香織食った?」



いけないと思っても嘉之の呑気加減に、苛立ってしまう。



「帰る!」



「はぁ!ちょっと待てよ!」



こういう時の嘉之の動きは、やたら早い。
玄関に向かう私を背中から抱き込む。



「離して!帰るからっ!」



「香織!落ち着けよ!どうしたんだよ!」



どうしたもクソもないでしょう…私の気持ちなんて、ちっとも解ろうとしてくれない。



「嫌っ!離してっ!」
「香織、こっち向けよ!」



嘉之は私の顎を掴み、強引に顔を上げさせた。



「嫌っ!!」



凄く酷い顔になっているのに…見ないで…。



「ずっと、泣いてたのか?」



嘉之は、そう言って微笑んだ。



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