理想と偽装の向こう側
第16章 懐古
「おめでとうございます。」
「早速来てくれて、ありがとう。」
滝島の奥さんは、清楚な人で落ち着きがある。
産まれた娘を腕に抱きながら、穏やかに微笑む母親の姿は美しいなと思った。
本当に滝島には、もったいないくらい出来た人だ。
滝島と結婚が決まり寿退社した時は、裏で何人か泣いてる男性陣がいたもんだった。
「抱いてみます?」
「いいんですか?」
「ええ、是非。」
チラリと、滝島を見ると唇を尖らしてた。
おいおい、ヤキモチは早いだろう。
俺は、恐る恐る手を伸ばし、小さな命を腕の中に包み込む。
「軽っ!小さい!」
こんな小さいけど、生きて動いてる。
口をモグモグさせて、グーしてる手は俺の指一本、掴めるかくらい小さく可愛い。
「あら、あなたより小田切さんの方が嬉しそうね。」
奥さんの言葉に滝島は
「なっ!早速たぶらかすなよ!」
おいおい…。
「そんな訳ないだろ!」
「ふふ…いつか小田切さんも自分の子を抱くときは、感激で泣いちゃうかもよ。」
「はははっ!そうかも!」
自分の子か…。