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月琴~つきのこと~

第3章 第二話 【月琴~つきのこと~】 一

 「信濃屋」の家族が起居するのは屋敷の奥まった一角であるが、妙乃ら若夫婦にあてがわれた寝所は最も奥まったところにあった。妙乃はつと立ち止まり、庭に面した障子戸を開けた。紫紺の空に白銀に輝く三日月が浮かんでいる。月明かりに照らされて、たっぷりとした薄紅色の花をつけた桜の樹が夜陰に浮かび上がっていた。

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