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空の記憶~あなたと私と彼、それから~

第5章 第二話 【めざめ】 旅立ち

 進一郎は温厚で優しい青年だった。幸は進一郎を幼いときから知っている。いわば兄を想うように幸は彼を慕っていた。できれば、そんな進一郎を傷つけたり、その顔に泥を塗るようなことをしたくはない。それでなくとも、婚約破棄したことで、彼はもう十分に衝撃を受けているだろうから。
「帰ろう」
 唐突に進一郎が幸の腕を取った。幸がよく知る穏やかな進一郎には似合わない強引さがある。幸は咄嗟に、その腕を振り払った。

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