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　亮平が拳を握りしめる。普段は穏やかな海は、時として人の生命を奪う怖ろしい魔物に変ずる。漁師は荒れ狂う海を相手に闘う、海の男だ。海との闘いで鍛え抜かれた亮平の逞しい手が小刻みに震えていた。
　亮平がプイと背を向ける。後はもう二度と振り返ることもなく、荒い足取りで歩み去ってゆく。だが、その後ろ姿には拭いがたい孤独の翳りが落ちていた。
　一度は家を棄て何もかもを失っても、ついてゆこうと決めた男との別離であった。