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空の記憶~あなたと私と彼、それから~

第20章 番外編第三話【秘恋~背徳の恋~】 睡蓮の池 

 見事なものである。素人目に見ても、織部の腕が絵師として卓越したものであることはひとめで窺えた。流浪の画家として埋もれさせるには惜しいほどである。これだけでももう完成作だと言っても十分だが、織部にはまだ不満があるようだ。
 今朝の食事の際も、いつになく冴えない思案顔で、ろくに喋りせずに早々に自室に引き上げていった。絵師とは、あのようなものであろうかと光円は不思議に思ったほどだ。いつもは話し好きで、陽気な男が絵筆を取れば一瞬にして別人のような厳しい横顔を見せる。

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