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空の記憶~あなたと私と彼、それから~

第21章 番外編第四話【轍~わだち~】

 一歩入ったとたん、言いようもない懐かしさが溢れてくる。昔から今もずっと規則正しく刻(とき)を刻む板の間の柱時計、隣の六畳ほどの畳の間、たった二部屋しかない平屋の中は、いつもここだけ刻が止まったかのような錯覚に陥る。
 子どもの頃から一人で来ていたとは言っても、せいぜいが夏休みに数日滞在する程度だった。それなのに、いつもここへ来る度に〝やっと帰ってきた〟というホッとした気持ちになる。都市(まち)に暮らしている晶にとって、祖母のいるこの海辺の小さな家は郷愁そのものだった。

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