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近くて遠い

第15章 芽生え

──────…

「おかえりなさいませ。」

会社からうちに戻ったのは夜の22時すぎだった。


「随分遅うございましたね。お食事はどうなさいますか?」


「明日の朝偵察に行くからその分の仕事を済ませていた。食事も取ったからいい。」


光瑠は古畑の問いにそっけなく答えながら辺りを見回した。

だがどこにも目当ての人物がいないことが分かり、軽く肩を落とす。


「真希様でしたら、自室でもうお休みになられています。」


「…!!」


光瑠は驚いたのをバレないように古畑を睨んだ。


古畑はいつもと変わらずニコニコとしている。


「……何も聞いていない」

「おや、失礼致しました。」


古畑がそういうと周りのメイドたちもクスクスとからかうように笑い出した。


「っ………」


光瑠は何となくその場にいるのがいやになり、黙って部屋に戻った。


ムカつくやつらだ…


からかわれた事も、図星だった事も、何だか恥ずかしくて光瑠は頭をかいた。




……休んでいるって随分早いな



時計をみると22時を過ぎたばかりで、今までの生活を振り返ると、やはり休むには早いような気がした。



身体がだるいのか。


昨日無理矢理自分が犯したという意識が光瑠を不穏な気持ちにさせる。


光瑠は様子を見に真希の部屋へ行くことにした。



ドアノブを掴んだ時、微かに光瑠の心臓が速まった。

ギィ───…


なるべく音を立てぬように扉を開けるが、古い屋敷なので、多少の音が洩れる。

中をそっと見ると、
電気も点け放した状態で、ベッドの上に倒れこむようにして眠る真希が目に入った。


眠ろうとして眠った感じではないな…


光瑠はその様子をみて、何故か少し嬉しくなった。



中に入り再びゆっくりと扉を閉めると、光瑠はスー…スー…と息を立てる真希に近付いた。





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