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近くて遠い

第19章 運命

トクントクン…と
心臓が高鳴る。


不思議なくらい、
気分が高揚していた。


初めて会った少女にこんな気持ちになるなんて…



「要様!!何をしていらっしゃるのですか!!
時間がありません!」


突然、背後から斎藤の声がして現実に引き戻された。

「うるさい。
分かっているよ。」


そう適当に返事をすると、要は再び地面に寝そべる酔っ払いを眺めた。


まずはこいつを…


「斎藤、交番に行って警官を呼んでこい。」



「交番!?
なぜですか!というかそんな時間はありません!お急ぎ下さい!」


時間のことばかりをいう斎藤に、要は頭にきた。



「うるさい!お前にはここに酔っ払いが倒れているのが見えないのか!」


腕の中に少女を抱いたまま顔だけ斎藤に向けて要が怒鳴った。



「酔っ払いなんかほっとけばいいじゃないですか…
それよりも重要なことが…」


「なら俺がいく。」


一向に動こうとしない斎藤に要はしびれを切らすと、傘を少女に渡して交番を探そうとした。


「えっ
ああ~もぉ…分かりました、私が行きますから…
警官呼んだらすぐに車に戻ってくださいね?!」


やっと、動き出した斎藤に笑顔を向ける。



「頼んだ、斎藤。」


斎藤が交番に行った後、
要は雨に打たれてグーグーイビキをかく男を見た。


「さてと。」


さすがにこれはかわいそうだ…



そう思った要は屋根のある下まで男を持ち上げて運び出した。



元の場所に戻ると黒い財布が目に入った。


あぁ…

なるほど…

あの葛藤した顔、

涙を流した理由はこれか…


「魔がさしたってやつか…?」


自分の傘を持った少女は、茫然としながら、立ちすくんでいた。



「金がないのか?
そんな汚いかっこして。」

みすぼらしい服装…


生活に困っているのか…
まだ随分若そうだが…



「おい、こたえろよ。」


一向に言葉を返さない少女に要は語気を強めた。



「え……あ、あの、私は別に…」


あぁ…

また困った顔をする…

別に困らせたいわけじゃない。


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