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近くて遠い

第3章 父の残したもの

泣くな…
泣くな…
泣くな…っ


そう自分に言い聞かせて、グッと歯を食いしばった。



─────少ないけど、とりあえずどうにかなるだろ────




ふと脳裏に浮かんだカナメさんの言葉にハッとして後ろを振り返ると、遠くの方にグレーの傘が投げ出されていた。



カナメさん……



私は


投げ出された傘をゆっくりと拾った。




「ただいまぁ」



なるべくお母さんに悟られないように元気な声を出す。


「真希……」



声のした方を見るとお母さんがフラフラとしながらベッドから起き上がろうとしていた。



「どうしたの?トイレ?」


「違うの…
なんか怒鳴り声みたいのが外から聞こえて…ゴホッゴホ…」



私はドキッとしながらお母さんの背中をさすった。



「あー私も聞こえた!
多分どっかでケンカでもしてるんじゃないかな?」



「そう…、ならいいの。真希が巻き込まれてるんじゃないかと思って…」



「何いってんの~
本当心配性なんだから。」


内心悟られるんじゃないかとドキドキしながら、私は必死に明るく振る舞った。

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