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「関根。」



いつもより低い声で光瑠は部下を呼んでその肩に手を置いた。



「社長…」


要は少しだけ身体をビクッと震わせて、光瑠の声の方を向いた。


そこまで光瑠が近付いても真希は取り乱したまま、要の腕の中で仕切りに涙を流している。


「……すまなかったな。」



「…いえ、大丈夫です。」


今までにない雰囲気が二人の間に流れる。



「もう、いい。
俺がいる。」



そう言って光瑠は要に真希を離すよう言った。




要はその言葉を聞いてギュッと下唇を噛んだ。


そして、一瞬真希を抱き締める力を強めてから、

ゆっくりと身体を離して真希を光瑠へ渡した。


「真希っ…俺だ…」


そう呟く光瑠の苦しげな声を聞きながら、

要は微かに身体を震わせていた。


そんな要のもとに一人のメイドが駆け寄って、落ちたステッキを拾い、要に渡した。

ありがとう、と要はそれを受け取ると、



「………では…僕はこれで。」



と振り返ることもせずに、要はその部屋から去った。




そんな要の背中を
光瑠はじっと見つめていた。



「お母さんがっ…お母さんがっ…」


撹乱したまま泣き止まない真希の声が光瑠の胸を打つ。


ふとベッドに眼をやると、白い布が被せられたあの日のはかない身体が横たわっていた。



逝ってしまったか───



幾度となく経験した人の死。


自分から去っていた愛する人の顔が光瑠の目に浮かんだ。


真希は震えながら泣き叫んだままだった。


「真希、この部屋から出よう…」


もうこの匂いに堪えられない


狂ってしまいそうになった光瑠は何も答えずに泣きじゃくる真希の膝に手を回して身体を抱えた。