テキストサイズ

近くて遠い

第33章 破壊

一抹の虚しさが光瑠を襲った。



仕切りに止める酒田の声と、伝統にすがりつく渡辺の泣き顔…



「ああっ…!」



光瑠は掴んでいた胸ぐらを床に叩きつけるようにして乱暴に離した。



激しくむせて、床に転がる渡辺を殺気だった目で光瑠が見つめる。




「社長っ!!いくらなんでもっ!」



「どいつもこいつもっ…!口答えも反論も許さん!弱者は黙って俺に従えばいい!!!!!!」



酒田はその言葉を聞きながら、光瑠の私的な怒りを感じ取った。



殺しかねないほどの剣幕に、酒田が慌ててうずくまる渡辺の身体を持ち上げた。


「出てけっ…!そんな願いを聞くほど俺は慈悲深くないっ…!!!それに、元々大した会社でもないくせにくだらんものにこだわりやがって!!!」


酒田はその悲痛な叫びを聞いて、怒りが要に向いているのに気付いた。



伝統に固執するマイスターの意向を大事にしていた要の心遣い。



酒田から見ても、その対応は今の光瑠のものとはまるで正反対だった。




「………渡辺代表、今日はお引き取りください」


酒田は渡辺を立たせて、支えながら出口に向かった。


光瑠の荒い息遣いを背中に感じながら、

渡辺が両拳を震えるほど握っているのを酒田は見つめていた。






ストーリーメニュー

TOPTOPへ