近くて遠い
第38章 大事なもの
ポタ…ポタ…と
紙に涙が落ちる音を
聞きながら、
震える光瑠の背中を
三人は黙って見ていた。
権力
金
過去
全てに傷付けられ、
歪まれた
光瑠の心に
力ない字で書かれた悠月の最期の言葉が
ゆっくりと
染み渡る。
豊かな家に生まれたはずなのに
どこにも望んだ"豊かさ"はなく…
母と父はうまく心を通わせられないまま、
自分を置いて去っていった───
愛に枯渇し、過去に捕らわれ続ける光瑠に
悠月は
前向きに生きることと、笑って生きることの素晴らしさを教えた。
なのに…
今の自分は───……
ひたすら酒をあおって、鬱々と過ごし、人に当たり散らす…
前に進むどころか
前を見ることさえもやめてしまった……