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それから、



どうやって家に帰ったのか、まるで記憶がない。



気付いたら、


びしょびしょに濡れたまま家のイスに座っていた。





カチカチカチ……




今まで気にならなかった時計の音がうるさいと感じるほど頭の中で響く。


結局

会いたいと思っていたのは私だけだった。


それどころか

カナメさんは、

私の顔すらも忘れてしまっていたのだ。



「ふっ…」




あまりに、あっけない恋の終わりに思わず笑ってしまった。



幾度となく現実の厳しさを痛感してきたにも関わらず、どこかでカナメさんは違うと信じていたなんて……



髪からポタ…ポタ…

と水滴が垂れて床を濡らす。


チラと机を見ると、


病院からもらった治療プランの紙が折り畳まれて置いてあった。


手を伸ばしてそれを掴みゆっくりと広げた。





──────お前に選択の余地はない





有川様の言った通りだ…





「うっ……ふっ…うぅ…」



紙にポタポタと涙が落ちて、じわりとインクがにじむ。



もう断る理由はない。




私は



自分の人生を


有川様に売る決意をした。