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第2章 ポルカ

 しかしどの本のどのページにも、ポルカという名前の音楽家については書かれていませんでした。そもそも昨晩、女の子はポルカが十四歳でこの世を去ったと言っていました。ひょっとしたら、ポルカは世間一般に認知されていないのでしょうか。あるいは十四歳という若さだったので、もしかしたら音楽家ではなかったのでしょうか。

 そうしている内に、図書室が閉まる六時半になりました。優斗はポルカについて調べられなかったことを残念に思いましたが、気を取り直して音楽室まで向かいました。音楽室からはまだ吹奏楽部の人たちの練習の音が聞こえたので、優斗はもうしばらく待たねばなりませんでした。

 三十分もすると、吹奏楽部の人たちはぞろぞろと教室を出て行きました。優斗は吹奏楽部の人たちが残らず帰ってしまうのを確認して、音楽室に忍び込みました。電気をつけようかと迷いましたが、見回りにきた先生に見つかると面倒なので、結局暗いままにしておきました。

 優斗はなんだかどきどきしながら、窓の中央前に座って、女の子がやってくるのを待ちました。昨日、優斗が家に帰った時間は十時五分前、九時頃からおおよそ四十分も女の子と一緒にいたのでした。

 膝を抱えながら女の子を待っている内に、優斗はだんだんと眠くなってきてしまって、ついには床に転がって寝息を立て始めました。

 ぽろんぽろんと鳴る、美しいピアノの奏音に、ふと目を覚ました優斗は、音を立てないように体を起こしました。部屋は真っ暗でしたが、ピアノの前に誰かが座っていることに気がつきました。

 耳に、そして心の奥底に響いてくるのは、昨日も聴いた『レグルージュのもとに』。あの女の子がピアノの演奏をしているようでした。おそらく女の子は、優斗のことには気づいていないのでしょう。

 あたかも盗み聞きをしているようないやらしさを感じましたが、演奏の邪魔をするのはいけないことだと思って、優斗はきっと口を閉じていました。

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