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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第3章 春の夢 参

「止めて下さい、あのときの話はしないで、お願いですから」
 お須万は蒼白になりながら、懸命な面持ちで言った。この彼女の様子から、お須万がけして、あの半年前の春の夜のことを忘れてはいないのだと判る。
 どうやら、お須万は清七があの夜のことを脅しか強請(ゆす)りのネタにするとでも勘違いしているらしい。
 もし、お須万が自分をそんな卑劣な男だと思い込んでいるのだとしたら、それは清七にとっては、あまりにも残酷なことだった。

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