まとまらないお話たち
第7章 7
薄野がそよそよと揺れていた。
頭上の雲は月を隠しながら風に吹かれ紺碧の海を流れていく。
彼女の黒髪はそれこそ夜の色に隠れるが、白い肌はそこだけ浮かび上がっているようだった。
それと鬼に変化しても色を変えない深紅の瞳……。
「蘇芳。どうして私を助けたの」
その眼をまっすぐ見据える私の瞳は彼女とは反対に青。
それは後ろ――背中に手を伸ばすと翼の感触があるからで、やっぱり夜になると月が隠れていようがいまいが有翼人の姿に戻ってしまうらしかった。
蘇芳は合わさる視線をそらすように天を仰ぐと、
「今宵は静かじゃな。妖の気を感じぬ」
あやかし……。
多分それにあてはまるであろう私が、あなたの前にいるけど……。
「なあ、千鶴」
不意に向けられた彼女の顔はひどく穏やかで。
「そなたの世界にも夜はあるのか。聞けばこの世とその世は、似ているのだろう」
「あ……うん。私しばらく下界に降りてないからわからないけど、日本って国は、あるよ」
地上世界にはもう、私がいたという痕跡は何一つ残されていない。
だからどうだって訳じゃないんだけど、やっぱり寂しく感じることは感じてしまう。
「帰りたいか?」
「うーん……。可能、なら」
こちらへ来てから向こうの世界の住人と何一つ連絡がとれていない。
おまけに私がここへ飛ばされる原因となった光る靄もなかなか出現しなくて。
最悪のケースを想定している訳じゃないけど、ある意味そうなっても仕方ないかなとも思ってはいる。
考えたくないけど。
「……そうか」
なぜか蘇芳は悲しげな笑みを浮かべた。
何か言おうと口を開きかけたら、
「千羽がな、珍しく興奮した顔で「鳥みたいに羽根をもった人がいた」と言ってきた」
懐かしむような優しい表情。
不意に見えたその顔に、もしかして私と千羽ちゃんが初めて会った日のことを思い出しているのかと気付いた。
「だが……2度目の時、あやつは泣いて我に縋りついてきおった。下の者と森を歩き、そなたを見つけた時、皆が渋る中で千羽だけが「殺さないで」と申してな。もとよりその気はなかったが、他の者を黙らせるにはそれで十分だった……」
ゆっくりと。
さくり、さくりと草を踏み分けながら蘇芳が歩み寄ってくる。
目の前まで来た彼女は、
「千鶴」
私の名を呼んで徐に手を伸ばしてきた。
白くきれいな指先が頬を上から下へなぞるように動く。
「千鶴。そなたは」
頭上の雲は月を隠しながら風に吹かれ紺碧の海を流れていく。
彼女の黒髪はそれこそ夜の色に隠れるが、白い肌はそこだけ浮かび上がっているようだった。
それと鬼に変化しても色を変えない深紅の瞳……。
「蘇芳。どうして私を助けたの」
その眼をまっすぐ見据える私の瞳は彼女とは反対に青。
それは後ろ――背中に手を伸ばすと翼の感触があるからで、やっぱり夜になると月が隠れていようがいまいが有翼人の姿に戻ってしまうらしかった。
蘇芳は合わさる視線をそらすように天を仰ぐと、
「今宵は静かじゃな。妖の気を感じぬ」
あやかし……。
多分それにあてはまるであろう私が、あなたの前にいるけど……。
「なあ、千鶴」
不意に向けられた彼女の顔はひどく穏やかで。
「そなたの世界にも夜はあるのか。聞けばこの世とその世は、似ているのだろう」
「あ……うん。私しばらく下界に降りてないからわからないけど、日本って国は、あるよ」
地上世界にはもう、私がいたという痕跡は何一つ残されていない。
だからどうだって訳じゃないんだけど、やっぱり寂しく感じることは感じてしまう。
「帰りたいか?」
「うーん……。可能、なら」
こちらへ来てから向こうの世界の住人と何一つ連絡がとれていない。
おまけに私がここへ飛ばされる原因となった光る靄もなかなか出現しなくて。
最悪のケースを想定している訳じゃないけど、ある意味そうなっても仕方ないかなとも思ってはいる。
考えたくないけど。
「……そうか」
なぜか蘇芳は悲しげな笑みを浮かべた。
何か言おうと口を開きかけたら、
「千羽がな、珍しく興奮した顔で「鳥みたいに羽根をもった人がいた」と言ってきた」
懐かしむような優しい表情。
不意に見えたその顔に、もしかして私と千羽ちゃんが初めて会った日のことを思い出しているのかと気付いた。
「だが……2度目の時、あやつは泣いて我に縋りついてきおった。下の者と森を歩き、そなたを見つけた時、皆が渋る中で千羽だけが「殺さないで」と申してな。もとよりその気はなかったが、他の者を黙らせるにはそれで十分だった……」
ゆっくりと。
さくり、さくりと草を踏み分けながら蘇芳が歩み寄ってくる。
目の前まで来た彼女は、
「千鶴」
私の名を呼んで徐に手を伸ばしてきた。
白くきれいな指先が頬を上から下へなぞるように動く。
「千鶴。そなたは」
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