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まとまらないお話たち

第8章 8

昼休み。
冷たい態度をとられていた彼女から連絡がきたと言って男子達の間を走り回り、頼んでもない携帯の文面を見せてきた中井が、今度はだらしなく頬を緩ませて教室に帰ってきた。
別れ話でもしたかと思ったが、状況は良い方向へと転換したらしい。
そりゃ良かったな。
どうでもいいと言う風に声をかけたのがまずかった。
聞きたくもないのろけ話を散々聞かされる羽目になり、そしてそれは授業が始まっても続いた。
クラスでは女子より男子の方が数が多いため、必然的に男同士が横に並ぶことになるのだが、俺は奴の隣という自分の席順を呪わずにはいられなかった。

「不器用だけど真っ直ぐな想いの先はオレ。その切々たる愛情を一身に独占できるんだから、オレってつくづく幸せだもんだよなぁ」
「……いやいや。恐ろしくポジティブな思考(それ)には感心モノだけど。ノロケがうざい以前にお前キ」
「モイとか言うなよ。先に言った方がキモイんだからな!」
「子供か」
「でよ、その後どうなったかとゆーと……」
「あー…はいはい。お腹イッパイ。俺満腹~……。つかいい加減、前向け。堂々とこっち向いてんじゃねーよ。今すっげオカちゃん俺らのこと睨んでんだけど」
こいつの視界には黒板を背に立つ教員の姿が入らないのか。
こちらを向く顔の両頬をおさえ正面へ向けさせる。
だがすぐにまたこちらへと首をひねった。
おいやめろ。
「マジで!? みんなの前で指名!? よっしゃ、オレ、かっこよく決めるから由香に報告してくれよ!」
な、工藤と俺の名を呼んで潔く立ち上がろうとした中井。
しかしその前にオカちゃんが指名したのは。
「…………チッ。なんだ。オカちゃん、工藤を呼んだか……」
隠すことなく舌打ちする中井を冷めた目で流し見る。
自然、睨むようになったのは仕方ないと思う。
「戻ったら覚えてろよ中井。次は俺の番だ」

俺の番――。
どういう訳だか中井のめでたい頭は、恋愛の話だと思ったようで。
面倒くさいと思った俺は、小指でなく親指を立てた。
一瞬中井の顔が石膏のように固まり青ざめたが、すぐに俺の肩に手を置き。
「お、おう……頑張れよ、工藤! オレ、応援してるからな!」
まさか本気にするとはな。
ああ、やっぱりこいつ馬鹿だわ。

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