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まとまらないお話たち

第13章 13


あの日。
のちに黒騎なんて大層な名を貰った新入りに試される試験を、黒騎と同時に入ったこいつはパスした。
恋の死に方を見たせいか、残る生贄が尋常でないおびえ方をしていた。
それを見ていたらなんか面倒臭えと思ったらしい。
それだけでパスだ。
社長は何も言わなかった。
俺なんか初体験ときはたった一発、弾を心臓に撃ち込むだけでこれでもかってぐらいキツク目ぇ閉じてありえねーくらい震える手で引金を引いたってのに。
ま、こいつは特別ということなんだろう。
のっけに紹介されたときには既に、組織の名『黒』を得ていたし。
「なァー、黒龍」
俺が呼ぶと長い脚をきれいに組み(畜生、羨ましいぜ!)本に目を落としていた奴が気だるげにこちらを見た。
なんか翠っていう女に貰った本らしい。
恋愛小説でも読んで少しは勉強しなさい! と指を突き付けられたらしいが、どんな女でも見向きもしないこいつが女に夢中になるなんてまずアリエナイだろうし、それ以前に素直に恋愛小説読んでる時点で正直気持ち悪ィ。
……ン、でも翠って奴の言うことを聞くってことは……?
思案に耽っている間に奴の顔が下を向いてしまった。
それを呼ぶと不機嫌そうな返事が返ってくる。
あのな、黒龍。
「相談なんだが……ある組織に属す人間を、そいつの家族にも周りの人間誰ひとりにも知られず証拠を一切残さず、片づけるってのはやっぱり肉体的には無理だろうか? 社会的に抹殺するとしても、その記憶を持つ家族は……やっぱり警察なり何なり、動くにきまってるよな」
「ふん…係わった人間全てを葬れば済む話だ」
「いっ、いやいや、組織全体を潰すんじゃあんまりだろ。ほら、関係のない奴はできるだけ巻き込みたくないっていうか、一応この国の未来を担う、」
「……学生がターゲットなのか……?」
鼻で笑っていた黒龍が不意に声のトーンを落とし、本を閉じるとさっと顔を上げた。
「そうなんだ。お前のお友達? …の翠さんと俺の妹が通う高校なんだけど、」
「依頼者は」
「……」
レザースーツの胸元から煙草を取り出す奴に、俺は数秒悩んだ挙句、立てた親指を自分に向けた。
口の端で銜えて火を点けた奴の女みたいな柳眉が顰められる。
「正式な書類も何も、まだ書いちゃいねぇ。そもそも今回、社長サンは通さないつもりなんだ。もちろん、報酬はちゃんと出す」
「要らん。大方、私怨を晴らすのが目的なんだろう」

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