まとまらないお話たち
第15章 15
今日はやけに獲物が抵抗する。
耳障りな雄叫びは鼓膜に栓をすることで消音し、もくもくと身を捌いていく。
こんなに騒ぎ立てるなんて、ご近所さんからまた苦情がくるじゃない。
でもひと思いに楽にさせちゃうと鮮度が落ちるから我慢する。
そんないつもどおりの夕飯支度の時。
「母様」
息子の声がしたので「なぁに、」と言いながら家事の手を止め、血塗れの手を洗った。
「今日ね、学校で身近な生き物について調べる授業があったんだ」
「生き物……」
にこにこと話す息子とは対照的に私の顔は曇る。
我が家では俗にいうペットという愛玩動物はいないから、困ったんじゃないかしら。
ところがそんな私の思いは杞憂とでもいうように息子は続けた。
「僕はね、迷わず人間について書いたんだ」
「まあ、人間を…?」
「僕にとってはどの動物よりも一番、身近だろう?」
得意げに口元に弧を描く息子の虹彩が変色するのを見て、諫言する。
「こーら。まだご飯が出来てもいないのに。行儀が悪いわよ」
「ごめんなさい。母様」
唇を一舐めした時じゅるりと音が聴こえたが、まぁそれは食べざかりの子供として、許すとしても。
お腹を空かせている我が子を待たせたままにはしておけない。
ご飯の支度に戻ろうとすると、息子が呼びとめた。
「提出したらね、先生にこってり絞られちゃって。どこか悪いところあるか、後で見てくれない?」
かさりと音がして白い紙がテーブルの上に置かれた。
あとで、と息子は言ったけれどなんとなく気になったので見ることにする。
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